本研究は、ユネスコによる国際条約・憲章・勧告といった国際協力による文化財保護をおこなうためのシステムに注目し、国際社会における文化財概念に日本が果たしてきた役割と、相互に与えあった影響について明らかにするものである。 初年度である平成19年度には、ユネスコの文化財保護に関する初めての国際条約である「武力紛争の際の文化財保護のための条約」(1954年採択)、またユネスコによる景観保護についての初めての国際勧告「風光の美と特製の保護に関する勧告」(1962年採択)に注目し、その成立過程の議論から各国の意見を分析し、景観保護導入期の国際的な理解を明らかにした。研究に際しては、東京文化財研究所所蔵関野克資料、博物館明治村所蔵資料、国際機関であるユネスコ、イコモス所蔵資料を資料として用い、研究への理解を得たうえで関係者へのヒアリングをおこなった。その結果、特に日本は名勝保護制度を今日の文化的景観保護につながる文学や芸術にかかわりを持つ自然景観として文化財としての保護を主張していたこと、当時、日本の名勝保護制度は国際的にも数少ない景観保護制度とユネスコにおいても認識されていたことが明らかになった。また日本の文化財保護制度と国際憲章で議論された文化財概念の相違についての比較のため、各国の文化財概念についても調査をすすめた。今年度はイタリア、ドイツの文化財保護制度、特に景観保護政策について調査をおこない、日本の文化財制度との比較をおこなった。
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