本研究は、ユネスコによる国際条約・憲章・勧告といった国際協力による文化財保護をおこなるためのシステムに注目し、国際社会における文化財概念に日本が果たしてきた役割と、相互に与えあった影響について明らかにするものである。 最終年度である平成21年度においては、これまで2年間の研究を総括した。ユネスコの最初の文化財保護に関する条約である「武力紛争の際の文化財保護に関する条約」(1954年)、またユネスコによる景観保護についての初めての国際勧告である「風光の美と特性の保護に関する勧告」(1962年)、さらに伝統的建造物群のような歴史地区の保護についての「歴史地区の保全及び現代的な役割に関する勧告」(1976年)を中心に、その成立の経緯とそこに示された文化財概念を考察し、日本の文化財概念との比較検討をおこなった。さらに、日本の文化財保護法についても詳細に検討しなおし、国際社会における文化財保護概念との関係を考察した。また、ドイツ、イタリアでの調査で明らかになった各国の文化財保護概念との比較も試みた。その結果、日本の文化財保護に独特の考え方である、名勝、天然記念物の概念は、1950年代から国際社会に対してその保護の必要性を日本の関係者は主張しており、それ以降の国際社会における文化財概念の発展に関係をしていたことが明らかになった。これは、今日の無形文化遺産保護における日本のイニシアティブに通じるものであり、日本の文化財保護概念は、国際社会からの一方的な影響を受けていただけではなく、相互に与え合った影響があることが確認された。
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