民家調査、市町村史編纂等の成果によって収集された普請帳や木寄帳などを素材として、用材の寸法(材種別の長さ、断面)と使用部位について調査した。またそれらの生産地についても出来る限り明らかにした。特に当該年度は、焼津市花沢の旧家にのこる普請関係文書、および旧家そのものの遺構調査を行うことによって、近世の民家普請の特徴と用材産出の状況を研究した。すなわち、文書史料からは、近世花沢の民家普請の特徴として、集落周辺から採材したこと。その殆どが杉で、柱・貫・板材に用いたこと。次に多いのが松で、梁・敷居・戸縁・差物・板に用いたこと。他に檜、竹、欅、桜も採材されたこと。欅の一部は商品材を購入することもあったこと。を結論づけることが出来た。即ち、近郊山林の自生材を主にしながらも、商品流通材を補完することで、使用箇所に応じた使用木材の種類の選択が行われていたことが確かめられた。このような文書史料からの成果と併せて、現存する建築遺構を実測調査することで、対応する部材の寸法と材種を詳細に裏付けられた。このように、本年度の成果として、近世民家の普請に関わる史料から構成部材に関する研究が行えたことに加えて、その史料が反映する遺構の部材を詳細に調査できたことは、建築材料という具体的な研究対象を史的に扱う際に生じてしまう具体性の裏付けの困難さを、遺構調査によって補完しえたという点で、建築生産史的に意義の深いものである。
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