本研究の第一の目的は、神戸の洋家具産業を事例として、室内意匠研究の根幹でありながら空白部分となっている産業発祥からの変遷を俯瞰できる資料を作成することである。第二の目的は、伝統技術の記録とその利点を活かすことのできる今日的なサスティナブルデザインの可能性を提案することである。 1、開港期における発祥の経緯を中心とした「神戸家具」産業の歴史的変遷について(1)黎明期の技術の源泉と.もいえる「塩飽大工」が、神戸で洋家具産業を起こす経緯については、関係各所での聞き取り調査と共に丸亀市、高松市で船大工技術の調査、資料収集を行った。(2)「神戸家具」と同様の経緯を持つ「函館家具」の代表事例として堀江佐吉による明治期洋館との比較調査を行い、並行して総合的な伝統家具の調査も文献や「家具の博物館等」で行った。(3)明治後期において神戸洋家具産業に多大な影響を与えた、京都高等工芸教授武田五一指導の洋家具・内装の演習課題作品の調査を京都工芸繊維大学美術工芸資料館で行った。(4)「神戸家具」の代表事例として、大正初期の近江八幡市のヴォーリズ建築に関わる家具と昭和初期の雲仙観光ホテルの家具について聞き取り調査及び実測を行った。 2、明治後期に定着した、半永久的な弓鍍で修理可能な木工技術の記録と今目的可能性について(1)「神戸家具」の代表的なラダーバックチェアを事例に製作工程を記録し、部材・仕口のサンプルパーツを製作した。(2)「神戸家具」の技術面での重要な道具である「膠鍋」について、各作業所で構造、素材、寸法、使用法の比較調査を行い、復元試作のための銅鍋部の製作を行った。(3)「神戸家具」の伝統技術を用いた、サスティナブルデザインの具体的可能性についての研究協力依頼を東京の家具メーカーに行い、20年度からの始動に向けて今後詳細を詰めることを確認した。
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