本研究の第一の目的は、神戸の洋家具産業を事例として、室内意匠研究の根幹でありながら空白部分となっている産業発祥からの変遷を俯瞰できる資料を作成することである。第二の目的は、伝統技術の記録とその利点を活かすことのできる今日的なサスティナブルデザインの可能性を提案することである。 1、開港期における発祥の経緯を中心とした「神戸家具」産業の歴史的変遷について 本年度は、前年度までの研究の補強を継続しながら、まとめの作業を主とした。系統的にその歴史がまとめられた機会が無く、第二次世界大戦や阪神淡路大震災で資料はより乏しくなっているため、時系列的な事実関係の整理によって、不明な点が多い戦前の歴史の骨格を具体的に整理した。その結果から、「神戸家具」に関する年表を作成し、戦前の歴史を4期(黎明期、模索期、成長期、成熟期)に分け、概要をまとめた。 2、明治後期に定着した、半永久的な強度で修理可能な木工技術の記録 この項目も、前年度までの研究の補強を継続しながら、まとめの作業を主とした。「神戸家具」の伝統技術である「膠着」(天然素材のにかわによる接着技術)と「ほぞ接合」(木工技術の継ぎ手の種類)に重点を置き、膠鍋などの道具の検証も並行しながら、その特徴をまとめた。 3、「神戸家具」の技術を用いた、サスティナブルデザインのための椅子の試作 本年度は、前年度までの研究を参考に具体的な試作を進めることに重点を置いた。各方面の協力により、商品レベルに達した計5点の試作が完成し、当初の計画を遙かに上回る結果が得られた。市場性や使用検証は今後の課題となるが、今後の研究につながう大きな布石となった。(1)伝統技術を用いながら今日のライフスタイルを考慮した試作(2脚)(2)伝統的技術から逸脱した収まりを用いた挑戦的な試作(1脚)(3)家具作家の視点から可能性を模索する試み(2脚)。以上、三段階の条件を設定して行った。
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