平成20年度は、北海道の近世期における和人の建築活動に関する記録史料を中心に、資料収集・分析を実施した。主要な成果は以下の通りである。 19世紀初頭の北海道島東部(太平洋沿岸)に設定された20ヵ所の「場所」に関する記録史料である『東蝦夷地各場所様子大概書』(文化8年:ひがしえぞち・かくばしょ・ようす・たいがいしょ)および『東行漫筆』(文化6年:とうこう・まんひつ)から、建築群に関する記録を集成・整理し、前期幕領期(1799・寛政11年〜1821・文政4年)における北海道島東部(太平洋沿岸)の建築活動の様相を分析した。 各場所に共通すると思われる特徴を挙げると以下の通りである。 「場所」の中心施設である会所建物は各場所で最大規模であること、会所元(場所の中心地)には基本的に会所、通行家・下宿所(宿泊施設)、蔵(板蔵・萱蔵)、神社が所在すること、会所、通行家・下宿所、蔵については、梁間数にはそれぞれ標準的柱間数があり、桁行柱間数が規模(建坪)の大小に影響している傾向が強いこと、板蔵、萱蔵は構造(仕様)に差があり、板蔵がより上質の蔵と位置づけられていること、番屋は基本的に各場所の会所元以外に所在し、旅宿・休所を兼ねるものもあること、小休所・昼休所などの休所は各場所で確認出来るものの、その数には粗密があり、規模や構造(仕様)にも差があることなどが挙げられる。同時に「大概書」および「漫筆」の記載は各場所毎に精粗があることから、全場所を俯瞰出来る要素は、建物名称、建物数に限定され、規模や構造(仕様)についての定量的分析には限界があることも明らかになった。
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