研究概要 |
核融合炉などの放射線照射場で使われる材料では,中性子などの入射により原子はじき出しが局所的に起こり,このとき生成した格子欠陥が時間をかけながら拡散していく.こうして,局所的な照射の影響が材料全体に徐々にひろがっていく.拡散する欠陥どうしは,やがて反応して集合体を形成するので,材料のミクロ構造が変化し,材料機能が劣化していく.本研究の目的は,原子から連続体までの構造階層をもつ材料という系の中で起こる,時間的にも空間的にもマルチスケールな現象<<照射損傷プロセス>>を,計算機シミュレーション手法による予測を可能にするためのモデルを開発することである. 平成20年度は,照射による材料中の欠陥蓄積過程を解析するのに有効な反応速度論式に対して,さまざまな時間・空間スケールのそれぞれにおいて支配的な項を抽出し,それぞれのスケールにおける物理プロセスやそれを解析するための計算機シミュレーション手法の整理を行った.また,異なるスケールどうしをどのようにつないでいくべきか(粗視化と微視化)の考察を行った.こうした検討を,原子力学会誌やプラズマ・核融合学会誌の解説記事としてまとめた.具体的な成果としては (1) 金属中のヘリウム損傷を例に,分子動力学法とモンテカルロ法の組み合わせ解析を行い,ヘリウムバブルの核生成・成長プロセスおよびバブル移動のモデル化を行った.これにより,たとえば分子動力学法単独ではシミュレーションすることが不可能なほど長時間の現象(ヘリウムイオン照射による材料表面損傷)をモデル化に成功した. (2) ヘリウムバブル形成をよく知るための参照として,炭化ケイ素中のボイドの核生成・成長についても同様の解析を行った.ヘリウムバブルがバブル内組成に関係なく成長するのに対し,炭化ケイ素中のボイドは空孔組成比を1:1に保ちながら成長した.この研究から,ヘリウムの効果をより理解することができた.
|