研究概要 |
【目的】マルテンサイト変態は不均一核生成により起こることは一般に知られているが,どのような欠陥が核生成の芽(エンブリオ)となるかを示す客観的データはほとんど存在しない.エンブリオに関する情報として,それらの具体的構造以外に,それらの存在場所,密度,ポテンシャル分布等があるが,これらに関する研究は殆ど存在しない.本研究ではエンブリオについてこれらの情報を求める方法を開発し,実施することを目的とした. 【方法・結果】まず,マルテンサイト変態温度(バースト温度,Mb)を精度良くかつ効率よく測定するために,直径100〜1000μmの多数の微小球状試料を同時に一定速度で冷却し,顕微鏡観察により個々の試料のMb温度を測定する方法を開発した.その結果,600μm以上では試料径によらずほぼ一定のMb温度を示したが,600μmより試料径が小さくなると平均Mb温度が低下するとともに同一サイズ試料についてもMb温度のばらつきが顕著に増加する現象が観察された.このような傾向は試料サイズの減少とともにエンブリオの数が減少することによる影響と解釈できる. 一方種々の核生成温度をもつエンブリオを試料中に分散させれば,その試料のMb温度がシミュレートできる.エンブリオの変態温度を,乱数を用いて発生させると,数多くの試料についてMbをシミュレートでき,これらを実測されたデータと比較することにより,エンブリオの存在場所,密度およびポテンシャル分布を求めた. 【結論】このような方法を適用することにより平均結晶粒0.6μの1.5mol%Y_2O_3-ZrO_2試料について解析を行うことにより以下の結果が得られた.(1)エンブリオは試料中ではなく試料表面に分布している,(2)最も不安定なエンブリオの核生成温度(T_<max>)は約180Kである.エンブリオの密度は核生成温度がT_<max>より低下するとともにT_<max>からの過冷度にほぼ比例して増加する.(4)T_<max>から77Kまでの核生成温度を持つエンブリオの密度は32/mm^2程度である.
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