水晶単結晶を切断し平衡形の水晶には存在しない人工面を露出させた後、再度結晶を成長させた。この人工面の成長速度が人工面の表面自由エネルギー密度との間に一次の関係を有することが今回の実験で明らかになった。これまで理論的には結晶面の成長速度は液相-固相の化学ポテンシャルの差で決るものであると考えられ、表面自由エネルギー密度との関係はほとんど論じられてこなかった。今回の当研究者の実験結果はこれまでの理論では説明できない現象であり、新たな理論的考察が必要となった。本研究を始める以前に当研究者は、塩素アパタイト、ルピー等の人工結晶で平衡形に近い自形の発達した結晶において表面自由エネルギー密度が結晶の成長速度と深い関わりを持つことを見出してきており、ウルフの関係式との関連性について論じてきた。しかし今回の人工面の表面自由エネルギー密度の測定結果が本来ウルフの関係式が成立するはずのない非平衡形においても一見ウルフの関係式が成立するように見受けられる。したがって、これまでの結晶面の成長速度に関する基本的理論についても根本から検討しなおす必要があると考えられるこれまでに原子間力顕微鏡や走査型電子顕微鏡での表面観察により、表面自由エネルギー密度の大きな結晶面において、より多くの凹凸が確認されている。実測されている表面自由エネルギーは平坦面の自由エネルギーに加えてステップ自由エネルギーをも計測しているものと考えられる。表面に凹凸を与えているのは結晶内部に偶然発生した欠陥から伸びている螺旋転移であると推測される。
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