結晶成長分野において表面自由エネルギーを実測することは研究開始当初を含め、この百年以上だれも行っていない。また現時点においても当研究者の手法を模倣する者は現れていない。そこで当研究者は結晶成長分野の理論で最も重要な概念である、結晶表面自由エネルギーを実測し、理論研究と現実系との橋渡しをする目的で研究を行った。コロイド界面化学分野で広く用いられている液体接触角による手法で結晶の表面自由エネルギーを測定する。研究対象の結晶としてはその合成条件が明確な人工結晶を研究の開始点とした。その後しだいに解析が困難な天然結晶を研究対象とした。とくに業者などから購入した天然結晶では表面の状況が本来の結晶成長時と異なり、他人による加工が加えられている可能性がある。そこで人工結晶を合成したときの経験をもとに人工結晶表面の部分的融解とエピタキシャル再成長を行い、天然結晶が成長した当時の状況を再現する試みを行った。天然結晶表面の部分融解およびエピタキシャル再成長による表面処理を行った。天然ルビーのように硬い母岩中で採取される単結晶は母岩から取り出す際に結晶面に多くの傷がついてしまう。さらに結晶表面には除去しきれなかった母岩成分が多量に残っている。したがってそのままでは液体接触角の測定は無意味なものとなる。人工ルビーを合成する際に用いるフラックス成分は水溶性であり、結晶合成後に簡単に除去でき結晶表面は清浄である。そこで天然のルビー結晶を水溶性フラックスで部分的に融解した。その後フラックスを蒸発させ過飽和状態にして結晶面にルビーを再結晶させた。この手法で天然結晶内部の欠陥はエピタキシャルに表面上に再現することができた。
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