研究概要 |
立方晶構造を持つ母相中には,母相・析出物間の界面が{100}, {110}, {111}といった低指数面となる析出物が,しばしば,観察される.本年度は,母相Cu中に含まれる擬多面体状Ag粒子について,析出物形状に関する実験的研究を行った. Cu-Ag合金圧延板の一方向凝固を行い,単結晶を作製した.この単結晶の溶体化処理と時効処理を行い,その寸法が数十nm程度以下のAg粒子について,系統的な形状観察を行った. Cu単結晶中に析出するAg粒子は, Cu母相とcube-cubeの方位関係を持つ.直径相当の値が20から30nm以下の大きさの微細なAg析出粒子は等軸的な形状を持っていた.これらのAg粒子は,直径相当の値が数nm程度から30nm程度までの範囲での粒子成長に伴い,球に近い形状から{111}で構成される正八面体に近い形状へと変化し,擬多面体状の範疇での形状変化が生じることがわかった. CuとAgは同じFCC構造であるものの格子定数はAgが約12%も大きい. Cu母相とAg析出粒子が作るcube-cubeの方位関係によるモアレ縞を観察したところ, Cu母相中のAg析出粒子には約6%の弾性ひずみが発生していることがわかり,母相と析出粒子のあいだの界面にはCuとAgの格子定数差の一部を緩和するための界面転位が発生していることがわかった.時効の進行に伴いAg粒子がさらに成長し, Ag粒子と同じ体積の球の直径が数十nm以上の大きさになると, Ag粒子はもはや等軸的な形状を示さず, <110>方向に伸長した棒状の形状を持つことがわかった.しかし,このような棒状Ag粒子についても, Cu母相とAg析出粒子のあいだの界面は,等軸的な形状のAg粒子の場合と同じく{111}で構成されることがわかった.
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