研究概要 |
TiNi形状記憶合金膜を低温で得るために,成膜時のパルス状負バイアス印加条件(例えば,周波数,印加時間)を変えてSi基板上に成膜し,得られた膜の結晶性と表面及び断面組織をX線回折装置と高分解能SEMで観察した.パルス状負バイアス印加条件を適宜選択することで,基板温度が400℃以下であっても結晶化した膜を得ることができた.結晶化した膜の表面及び断面には結晶粒が成長した痕跡,例えば,粒状あるいは柱状結晶は認められなかった。表面には直径が数十nmの浅いくぼみが観察された.パルス状負バイアスを印加しない場合にはこのようなくぼみは全く観察できないので,いわゆる逆スパッタ現象によってくぼみが形成したと予測している.パルス状負バイアスの印加条件を最適化したところ基板温度が200℃であっても結晶化した膜を得ることができたので,本条件でポリイミド箔上にTiNi形状記憶合金を成膜し,その動作を確認した.成膜時に導入された残留応力によって同組成のバルク材とは若干異なる動作温度を示したが,加熱時には逆変態に起因した形状回復が,冷却時にはマルテンサイト変態とポリイミド箔の弾性力に起因した初期形状への復元が認められた.すなわち,二方向形状記憶素子を得ることができた.複数回の加熱及び冷却のサイクルの後に表面をマクロ観察しても,割れやはく離などが認められなかったので,膜とポリイミド箔の密着性も良好と判断できる.成膜時に実施したポリイミド箔最表面へのイオンボンバードメントによるクリーニングとTi及びNiのイオン照射によるアンカー効果などが機能したと考えている.次年度は,FeGaあるいはPZTなどの他のフェロイック材料の低温合成手法を確立し,これらとTiNi形状記憶合金膜の積層化,積層化した素子の動作特性評価を実施する計画である.
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