研究概要 |
本年度は包晶組織形成過程に注目し、昨年までと同様にSr(NO_3)_2-H_2O系をモデル系として用いて実験を行った。 実験は、包晶関係にあるSr(NO_3)_2(α相)とSr(NO_3)_2・4H_2O(β相)、後者と共晶を作るH_2O(γ相)がそれぞれ液相と共存する組成C_1,C_2,C_3の溶液を準備し、少量をガラス板で挟んで温度コントロールし、凝固過程を光学顕微鏡で直接観察・記録する方法で行った。得られた結果は以下の通りである。 ・溶液C_1を冷却していくと、α、β、γ相の順番で核形成が起こる。このときβ相は必ずα相の上に発生し、単独では核形成しない。 ・いずれの溶液も温度をさらに下げると、まずγ相、次いでα相の順番で結晶が発生するようになり、多くの場合γ+αの組織で凝固が完了する。溶液C_1、C_2では、最終的にα相上にβ相が発生する場合もある。 以上より、主な結論として次が挙げられる。 ・β相はα相が存在する場合のみ不均一核形成によって現れる。また昨年までの研究で明らかにしたように、β相の成長速度はα相より大きいため、一旦核形成するとα相を固体包有物として取り込む。包晶組織は準安定相と安定相との核形成と成長の速度差が主な原因となって生じる。 ・溶媒(γ相)の凝固が最初に起こる場合、溶液全体の平均濃度が低くても、α相に対して過飽和な溶液が部分的に生じる、さらにこれを核としてβ相の成長も可能となる。一方どの濃度でも、β+γの組織が形成されることはない。過冷によって形成される結晶組織は、相図に示される安定な組み合わせとは必ずしも一致しない。
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