これまで包晶系における組織形成機構を、異なる結晶相の核形成および成長のカイネティクスの観点から検討することを目的に、Sr(NO_3)_2-H_2O系をモデル物質として結晶得生成過程の直接観察を中心に行ってきた。この結果、包晶組織形成には核形成速度は高温相で大きく、成長および溶解速度は低温相で大きいという一見相反する条件が必要であり、これは各結晶相の表面エネルギーと結晶表面での成長カイネティクス係数の大小で説明できることを、速度計測の結果から導いた。本年度はこの包晶組織形性機構の一般性を検証するために、Sr(NO_3)_2-H_2O系に加えてNiSO_4-H_2O系およびサリチル酸-アセトアミド系で同様の観察を行った。 この結果、他の二つの系でも低温相の安定領域でも準安定な高温相が優先的に析出する現象が観察され、核形成速度の関係についてはSr(NO_3)_2-H-2O系の場合と同様の結果が得られた。水溶性の無機塩結晶では、溶解度の温度依存性と表面エネルギーとの間に相関関係があることが経験的に知られており、一般的に包晶系では低温相の方が高温相より表面エネルギーが大きいことが期待される。今回の結果は、この関係が水溶液系のみならず、より多くの系に共通する関係であることを示している。 しかし一方Sr(NO_3)_2-H_2O系に見られたような、高温相が必ず最初に核形成し、その上に不均一核形成することによって低温相が現れる現象は他の系でも必ず起こるわけではなく、低温相に対して十分な過冷度を与えると単独で核形成する場合も多い。このことは包晶組織をが形成される条件が、系によって大きく左右されることを示唆している。
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