本研究の目的は、イオン液体を媒体として用いたバイオ分子の新しい抽出分離システムを開発することである。 イオン液体は有機性の陽イオンと陰イオンからなる溶融塩である。両イオンの組み合わせにより様々な物性のイオン液体を創成し、これを用いて従来の有機溶媒に比べ安全かつ高性能の抽出系が構築きることをいくつかの金属イオンおよびバイオ分子について示した。一方、典型的なイオン液体への抽出剤の溶解性を調べることにより、溶解する抽出剤が限られていることがわかった。抽出剤として、クラウンエーテルはタンパク質(シトクロムc、Cyt-c)を高度に認識し、イオン液体へ分配させる。そこで、クラウンエーテルを、イオン液体を構成するイミダゾリウム陽イオンの側鎖(官能基)として導入したイオン液体を用いて、Cyt-cの抽出を行った。官能基を持たない通常のイオン液体を溶媒とし、クラウン化イオン液体をこれに溶解して用いるとCyt-cはイオン液体相に分配し、その割合はクラウン化イオン液体の濃度が高くなるとともに増大し、ほぼ定、量的な抽出が行えることが明らかとなった。なおクラウン化イオン液体を含まない場合には、Cyt-cはほとんど抽出しなかった。クラウン化イオン液体を溶解させるイオン液体について、側鎖としてアルキル基とアルコールを有するものを比較した結果、後者のイオン液体の抽出能力が格段に高いことが明らかとなった。これらの結果から抽出機構を明らかにし、クラウン化イオン液体がクラウンエーテルをイオン液体に溶解した場合と同様の抽出挙動を示すことを示した。有機溶媒抽出系に比べ抽出能力が向上すること、官能基を導入して機能化したイオン液体も抽出剤と同様の抽出機能を示すことから、分子設計により、イオン液体の応用範囲を広げられことが示唆された。さらに、DNA抽出に対応する抽出系の検討を行った。
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