本研究の目的は、イオン液体を媒体として用いたバイオ分子の新しい抽出分離システムを開発することである。抽出性能の重要な鍵を握るのが抽出剤であるが、イオン液体への抽出剤の溶解性が課題である。本年度はDNAの抽出をモデルにイオン液体抽出系の開発を行った。 DNAはヌクレオチドの重合体で、水相ではリン酸部が解離して、ポリアニオンとして存在している。抽出剤として四級アンモニウム塩型のカチオン性界面活性剤が有用と考えられるが、抽出性能が高い構造の界面活性剤ほどイオン液体への溶解性は悪くなる。界面活性剤を含むイオン液体溶液の温度を変化させて、臨海温度(液が均一になる温度)を調べた結果、プロパノール等のアルコールを加えるか、イオン液体カチオン側鎖長を長くすることにより、臨界温度が低下することが明らかとなった。そこで、n本の長鎖アルキル基(炭素数m)を有する界面活性剤nCmQACを用いてDNAの抽出を行い、2C18QACとイオン液体カチオン側鎖長12の[C12mim][Tf_2N]により、DNAの定量的な抽出を行うことに成功した。有機溶媒系では抽出率の低かった、よりアルキル鎖長の短い界面活性剤でも定量的な抽出が達成され、イオン液体系が有機溶媒系に比べ高い抽出能力を示すことが明らかとなった。イオン液体カチオン鎖および界面活性剤の種類により、その抽出挙動を検討した結果、抽出剤およびDNA界面活性剤複合体の溶解度、すなわち、イオン液体と抽出剤の適切な組み合わせが重要であることがわかった。さらに典型的なアニオン性および中性抽出剤を用いてイオン液体との親和性と抽出性能の関係も検討し、イオン液体を分離媒体とする抽出分離システムを構築するための知見が得られた。
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