製品が結晶であるものは多く、工業生産で制御したい代表的な結晶特性の一つは粒径と粒径分布である。現在開発中の医薬は水難溶性であるものが多く、血中に直接投与するために100nm程度の結晶を製造することが要求されている。これを果たすためには、結晶核の発生を制御する以外に方法はない。しかし、有機化合物の核発生については十分に理解できていないことから、世界で見ても満足な成功例がない。そこで、本研究では、核発生のメカニズムを解析するとともに、核発生のタイミングを揃えるための晶析操作について検討した。 1)核発生切メカニズム:溶液から析出する結晶の多形は、各発生前の溶液の状態で決定されており、溶媒と溶質の間に働く相互作用によって決まる溶質のコンフォメーションが析出する多形を決めているという結論を得た。 2)核発生の伝搬:既に存在する大きな結晶が新たな結晶核の発生に及ぼす影響について検討する目的で、レーザー光を用いて微小な結晶の生成と溶液中での動きを観察できる装置とソフトウエアを作成した。これを用いて、結晶核発生が溶液を通して伝搬することを疑問の余地無く証明するための実験を継続中である。 3)反復冷却晶析による均一粒径の微結晶生成:結晶化とその完全溶解を繰り返すことによって、過飽和溶液中の溶質のコンフォメーションと会合状態を結晶構造のそれに近くすることができ、それによって粒径分布が狭い有機化合物微結晶を製造することができた。 4)マイクロ波照射晶析による均一粒径を有する微結晶の生成:界面活性剤を添加した未飽和溶液にマイクロ波を照射することによって、粒径が揃った微結晶を製造できた。ナノ結晶製造の新たな方法としてさらに検討する価値がある。 5)ナノ結晶を製造するには、溶液中で溶質が大きな会合体を形成しないような操作が必要であると、発想を転換する結論を得た。
|