体内環境を模倣する培養条件下で、多数の継代操作を行って脱分化状態となった軟骨細胞を再分化させる培養操作条件や技術を見出すことを目指した。軟骨組織の形成にはII型コラーゲンの発現が不可欠であり、この発現に関する検討を主に行った。軟骨組織はII型コラーゲンに覆われ、軟骨細胞は球状の細胞形態を保持しながら低酸素分圧下などの体内環境に存在していることに着目して、ヒト由来軟骨細胞をこれらの環境下で培養し、II型コラーゲンのmRNA発現を計測した。回転培養による細胞の凝集形成を検討し、所定の回転数が細胞凝集に有効なことを明らかにしていたが、静置培養によっても細胞が自然に集合して細胞凝集体を形成することも見出した。さらに凝集体形成に伴ってII型コラーゲンが顕著に発現することを観察した。静置培養によって適切な細胞密度を有する凝集体が形成されたために、凝集体内への適切な栄養成分や酸素が供給され、これがII型コラーゲンの顕著な発現に寄与したと考えられる。また個々の細胞も球状であることが観察された。回転培養による凝集体形成では、高い細胞密度であったために必ずしも良好な細胞状態とはならず、II型コラーゲン発現が小さかったと考えられる。静置培養で形成された凝集体を低酸素分圧下で培養したところ、II型コラーゲンの発現がさらに増加することを見出した。脱分化した軟骨細胞を再分化させて軟骨組織を再生させるには、静置培養で形成させた細胞凝集体を低酸素分圧下で培養することが有効であることが示唆された。凝集体培養において細胞増殖を向上させることも重要であるが、適切な増殖因子とその濃度、ならびに適切な培養条件を検討することが今後の課題として残された。
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