宇宙環境下では宇宙機表面の熱制御材と原子状酸素や紫外線との反応により材料表面から脱離した低分子量フラグメント(分子コンタミネーション)が隣接する衛星搭載光学部品表面に堆積することによって、その性能を著しく低下させることが危惧されている。本研究では、太陽観測衛星「ひので」における検証実験の経験を基にして、ミッションに直結したデータベースの構築のみならず、分子コンタミネーション脱離・付着に関する現象を物理化学的側面から明らかにすることを目標とし、反応生成物の脱離および付着特性を温度制御型水晶振動子マイクロバランス等により高精度解析しようとするものである。研究最終年度である平成21年度には、これまで用いてきたポリイミドに加えて、紫外線に敏感な材料であるフッ素系ポリマーに対する原子状酸素および真空紫外線(エキシマランプ、重水素ランプ)の影響を、分子コンタミネーション発生量という観点から検討した。本研究で実施した一連の実験結果より、(1)原子状酸素および真空紫外線を単独照射した場合には、いずれにおいてもフッ素系ポリマーの質量は減少する、すなわち分子コンタミネーションが発生すること、(2)原子状酸素と真空紫外線を同時照射した場合の分子コンタミネーション発生量は、それぞれの単独照射時の単純和となり相乗効果は観察されないこと、(3)分子コンタミネーション発生量は原子状酸素の平均衝突エネルギーの増加とともに指数関数的に増大すること等が明らかになった。これらの実験結果から、フッ素系ポリマーからの分子コンタミネーション発生には真空紫外線とともに、高エネルギー原子状酸素(>6eV)の衝突が重要な要因であることを明らかにした。
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