船舶は入港して出航するまでの短い停泊時間の中で次の航海に向けた点検保守を機関員の目視や触診などにより注意深く行われるが、ディーゼル機関の各部材を締結しているボルトのゆるみや部材内部の亀裂は目視で確認できないため、それらの箇所については熟練した機関員が点検ハンマーにより打撃してその打撃音から異常の有無を調べている。しかし、高度な熟練と経験を必要とするため、すべての機関員が同じ技能を有することは難しく、特に団塊の世代が第一線を退く2007年以降は各分野で高度技能者の減少により、保全レベルの低下が懸念されている。本課題は懸念される船員の熟練技能問題にこたえるべく取り組んでいる研究である。 そこで本研究は、船舶乗組員の打撃音に対する認識力の調査から始めた。テストピースを打撃する際、人による打撃では個人差があるため電子制御ハンマーを製作した。このハンマーを用いてディーゼル機関連接棒を打撃したときの打撃音をマイクロホンで録音後、船舶乗組員にそれを聞かせ認識力をアンケート方式で実施した。被験者を熟練技術者グループと若年技術者グループに分けて分析すると熟練者のグループが打撃音からボルト締結力を判断できることが判明した。次に打撃音から保全情報を抽出できるか否かの検討をおこなった。締結力を種々に変更してそのときの打撃音を周波数分析し、データの蓄積を行った。そのデータ群に対して統計解析を行い、打撃音から締結力を推定する重回帰式を求めた。推定した結果、重相関係数0.98程度の精度が得られ打撃音からでも充分な締結力推定が出来ることが判明した。今後、これをシステム化する手法について開発を進めていく。なお、成果の一部は平成19年5月日本マリンエンジニアリング学会で学術講演を行った。さらに、平成19年7月に実施された神戸大学連携創造本部並びに科学技術振興機構主催による研究シーズ発表会で紹介した。
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