平成19年度に開発したニューラルネットワークによる翼型の粘性抗力係数推定システムをプロペラ性能計算法に組み込んで幾つかのプロペラの性能を計算し、実験値と比較して妥当性を確認した。このようにして高度化したプロペラ性能計算法をプロペラ設計支援ツールに組み込んだ。さらに、計算時間は長大となることが予想されるが、プロペラ設計支援ツールに境界層計算法を直接組み込んだ計算プログラムも作成した。両者を用いてプロペラの改良を行った結果、ほぼ同程度性能が向上した改良プロペラが得られた。計算時間はニューラルネットワークによる翼型の粘性抗力係数推定システムを組み込んだ方が格段に短く、本研究の目的は達成された。 次に、プロペラ設計支援ツールの信頼性をさらに高めるため、プロペラ設計における制約条件として重要な、船尾伴流中でのキャビテーション発生範囲を考慮できるようにした。そのためには非定常キャビテーション計算法を開発する必要があるが、キャビテーションモデルを用いた計算法は計算時間が長大となるので、最適化計算の中に組み込むのは現実的ではない。そこで、簡易的な非定常キャビテーション性能推定法を開発した。すなわち、パネル法に基づいたキャビテーションを発生していない非定常プロペラ性能計算法により翼表面の圧力分布を計算し、飽和蒸気圧より低いところにキャビテーションが発生しているとする簡易的な計算法である。さらに、計算時間を短縮するため、1枚の翼だけ細かくパネル分割し、他の翼は粗いパネル分割としたが、翼表面圧力分布の計算結果には僅かしか差が生じないことが分かった。このような簡易計算法をプロペラ設計支援ツールに組み込むことで、船尾伴流中のキャビテーションの発生範囲を制約条件として考慮することが現実的となり、プロペラの改良においてキャビテーションの発生範囲のコントロールが可能な、実用的なツールが開発できた。
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