本研究の目的はトリチウムの吸着量・溶解量を根本的に低減し、トリチウムプラント等で実際的に使用可能な材料の開発指針を構築することを目途とし、試験材料表面の物理的・化学的状態及び組成の分析と共にトリチウムの吸着量・溶解量の測定データの蓄積・評価を行い、トリチウムの低吸着・低溶解材料の探索・開発である。この様な目的の下で、銅基合金試料にトリチウムガスを曝露し、材料表面への吸着及び内部への溶解挙動を調べた。この際、トリチウムガスの曝露条件として圧力及び温度をパラメーターとして変化させ、それぞれの依存性を評価した。 合金内部のトリチウム濃度は、曝露条件に関係なく表面層に高濃度領域が存在し、内部は均一濃度分布であった。曝露温度や時間にも依存するが、内部は表面層に比べ1/1000以下の濃度であった。また、トリチウム取り扱い装置等に使用されているステンレス鋼に比べると溶解濃度は約1/300の低さであり、本合金が非常に有望な材料である事が知られた。なお、曝露条件として温度一定でトリチウムガスの圧力を変化させた場合、溶解濃度は圧力の1/2次に比例し、トリチウムガスが合金表面で分子状態から原子状態に解離して合金内部に溶解するSieverts則に従う事が明らかとなった。曝露温度依存性よりSieverts定数を温度の逆数に対してプロットすると両者の間に直線関係が得られ、この直線の傾きより溶解熱が求められた。求められた溶解熱は17kJ/molとなり、純Cuに対して報告されている溶解熱の約1/3となった。Beとの合金化に伴う溶解熱の低下は、Beとの合金化による結晶構造の変化は起こっておらず、格子定数が純Cuよりも1.1%減少していたことを考慮すると、トリチウム原子の溶解可能な体積が減少したことによる構造的な因子の影響と考えられる。
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