本研究の第1の目的は、J-PARCやアメリカのSNS計画等、大強度中性子源の建設が進行中である現在、低磁場で機能する高性能中性子偏極デバイスの作成手法を早期に確立することである。 磁気多層膜は中性子の磁気散乱ポテンシャルを制御することにより、中性子のスピン状態を選別する偏極素子としても使用できる。我々はイオンビームスパッタ(IBS)装置を用いて、世界最高性能のm=6 NiC/Ti多層膜中性子スーパーミラーの開発に成功したが、磁気多層膜では磁性的に非常にハードなものしか作れなかった。磁気多層膜を中性子偏極デバイスとして使用するためには、磁性膜が飽和している必要があり、外部磁場が必要となる。この外部磁場を小さくするには磁性的にソフトであることが重要で、最近純鉄(純度99.99%)を用いてその界面に0.5nmだけシリコンをスパッタすることで磁化特性が良くなることを発見した。そこでまず今年度はこの低磁場駆動偏極ミラーの実現を目指して成膜プロセスのレシピを確立した。また実際の分光器への適用を検討した。ここで既設の装置へ反射型偏極ミラーを導入する場合、反射によるビームラインの変更が問題となる。そのため、ビームラインを変更しない透過型偏極ミラーの開発を行い、m=4で実用可能な透過型偏極スーパーミラーの開発に成功した。
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