磁気多層膜は中性子の磁気散乱ポテンシャルを制御することにより、中性子のスピン状態を選別する偏極素子としても使用できる。磁気多層膜を中性子偏極デバイスとして使用するためには、磁性膜が飽和している必要があり、外部磁場が必要となる。この外部磁場を小さくするには磁性的にソフトであることが重要で、最近純鉄(純度99.99%)を用いてその界面に0.5nmだけシリコンをスパッタすることで磁化特性が良くなることを発見し、m=4.9で偏極率94%以上、反射率70%以上の磁気多層膜スーパーミラーの開発に成功した(この成果は2008年9月に東海村で開催された偏極中性子の国際会議「PNCMI2008」において、Plenary talkを行ったPSIのPeter Boni教授からも理論的限界に近い性能の世界最高性能偏極スーパーミラーとして紹介された)。またビームラインを変更しない透過型偏極ミラーの開発の開発にも着手した。そしてm=4の透過型偏極スーパーミラーの開発に成功し、今年度まででにこの成膜プロセスのレシピは確立した。そして実際の分光器への適用、特に新しい分光法であるMIEZE分光器のキーパーツの一つとして適用し、有用性を示した。さらに、日本原子力研究開発機構JRR-3のC3-1-2-3(MINE2)ポートの冷中性子スピン干渉計の入射偏極モノクロメーターミラーの高度化を行い、λ=0.88nm、波長分解能2.7%という単色ではあるが、偏極率99%まで達成した。この偏極解析システムを用いて、作成した偏極スーパーミラーの偏極率の精密測定を行い、全体としては偏極率が95%程度のミラーにおいても、それぞれの膜厚で最高の偏極率が異なり、膜厚依存性が明確にあることを確かめ、更なる低磁場駆動化への指針を得た。
|