研究概要 |
本研究では、重陽子ビームを用いた加速器中性子源の核設計に不可欠な重陽子入射核反応機構として、重陽子分解反応やストリッピング反応による中性子生成反応に着目した理論解析を行った。主要な中性子源反応であるLi(d, n)反応に対して、重陽子の弾性分解反応過程を記述する連続状態離散化チャネル結合法(CDCC法)とストリッピング反応を記述するグラウバー理論による計算を実施し、25および40MeV入射のLi(d, n)反応二重微分断面積データと比較した。計算に必要な核子光学ポテンシャルは19年度の研究で導出したものを使用した。計算結果は、前方角で観測される分解・ストリッピング反応に起因する中性子スペクトル上のバンプ構造を良好に再現できることがわかった。さらに、反応機構の入射エネルギー依存性の調査を行った。40MeV以上の領域でLi(d, n)反応の実験データは皆無であったために、標的核の広い質量数範囲に亘る実験データが存在する100MeV(d, p)反応の解析に同様な計算手法を適用した。軽い標的核であるBeとCに対しては、Li(d, n)反応の解析結果と同程度に20度より前方角への放出陽子スペクトルの形状と絶対値を良好に再現できることを確認した。しかし、Al以上の中重核ではクーロン分解反応の影響が大きくなり、このクーロン分解を考慮したCDCC計算が必要となること、さらにクーロン場のためにグラウバー理論のアイコナール近似の精度が悪化し、入射粒子軌道の修正が必要となることを見出した。以上の理論解析を通じて、100MeVまでの重陽子入射核子生成反応では、弾性分解過程に比べてストリッピング反応過程の方が相対的に重要な寄与を示し、前方方向への核子生成における主要な反応機構であることを明らかにした。
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