物質の過冷却現象を利用することで、貯蔵された熱の抽出が需要に応じて可能な蓄熱技術を開発するために、蓄熱材融液の不溶性粒子の平均粒径が過冷却度に及ぼす影響を、蓄熱材候補として検討されてきている有機化合物について実験から明らかにした。 具体的には、融点57℃のポリエチレングリコールの融液を孔径1μm、0.45μm、0.2μmの濾紙でそれぞれ濾過し、濾液中の不溶性粒子の粒度分布と濾液の融解・凝固特性を調べた。実験では凝固による管路内の閉塞を避けるために、濾過工程全体を試料の融点以上に保持する必要があり、濾過装置の工夫に時間を必要とした。粒度分布は光子相関法(動的光散乱法)の粒度分布計で測定し、各濾紙の公称孔径を超える大きさの不溶性粒子がほぼ除去できていることを確認した。無濾過の融液および各濾液の一般的な融点、融解熱、凝固開始温度は示差走査熱量計で測定した。バルクでの融解・凝固特性は、無濾過も含めた80gの各試料を100mLの容器に個別充填密封し、環境試験機で12時間を1周期とする加熱・冷却操作を反復することで調べた。その結果、不溶性粒子の除去が過冷却度の拡大効果に寄与し、過冷却度が最大で6割近く拡大することがわかった。また、過冷却度の拡大効果は融解と凝固を反復しても変化しないことを明らかにした。 ポリエチレングリコールは暖房温度に適した相変化蓄熱材の一つとして有望視されている。本研究結果は、その過冷却度が融液の清浄度を変えることにより安定的に拡大制御できることを定量的に明らかにしたものであり、相変化蓄熱材の応用に有用な知見となる。
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