半導体として最も広く利用されているSi基板上で、高速低消費電力デバイスへの応用が期待される化合物半導体InSbの薄膜を品質良く形成し、更にデバイスの試作を目的とした。 前年度、Si(111)基板上でのInSb単分子層を介したAl InSb薄膜の形成についての実現可能性を示すことができた。本年度は良好なAl InSb薄膜形成、及び、それを利用したSi基板上でのトランジスタ試作を目指した。Al_xIn_<(1-x)>Sb薄膜のAl組成xが大きくなるにつれ、より高い成長温度が必要とされるため、我々のInSb単分子層を介して成長させる手法は適応が難しくなる。しかし、詳細な成長条件設定を行い、x=0〜0.65の範囲で良好な結晶性を持つ薄膜を得た。これは特別に厚い緩衝層を用いず、Si基板上へAl InSbの良好な薄膜を形成できたという点において他に類をみない。これを応用して、トランジスタ構造の試作も行った。結果、半絶縁層としてのAl InSb層において正孔密度が大きくなっており、これが原因でデバイス動作を得られなかった。しかし、この積層構造に対するX線回折評価によると、その結晶性は非常に良いことが確認されている。デバイス動作を実現するためには、Siと上部層間の界面における欠陥等について更なる検討が必要である。 並行して、上記の成果をSi(001)基板上でも利用するために、Si(001)基板上での傾斜(111)面の作製及び、その傾斜面上へのInSb薄膜形成について実験を行った。通常(001)基板上では多結晶成長してしまうInSb薄膜について、傾斜(111)面を用いることでエピタキシャルなInSb薄膜を得た。この結果と前述の成果を合わせることで、Si(001)基板上でもInSb単分子層を用いた高品質薄膜の形成及び、そのデバイス利用についての実現可能性が示した。
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