転移因子の転移頻度が突発的に上昇する現象は、トランスポジションバーストとよばれ、多数の生物種で事例がある。本研究の目的は、メダカでこの現象が観察されたTol1因子に関して、その機構を解明することである。1年目である本年度は、この現象を人為的に再現することを目指した。Tol1因子は、メダカのゲノムに100〜200コピー存在する。ただし、そのほとんどが、内部が崩壊した非自律的因子である。そのような状態のゲノムに転移酵素を供給すると、非自律的因子の転移が再開することが、予想される。この予想を確認するために、2段階の作業を行った。第1段階は、非自律的因子をまったくもたない系統を準備することである。そのために、因子の各部をプローブとして、ゲノムDNAのサザンブロットを行った。そして、端部のプローブにはシグナルは出るが中央部のプローブでは出ない系統を選んだ。標準的な系統として多用されているHNI系統が、これに該当した。第2段階は、この系統に転移酵素を供給し、転移を検出することである。これを、転移酵素のRNAを受精卵に注入するという方法で、行った。注入から7日後にゲノムDNAを抽出し、Tol1因子をはさむプライマーを5組用いて、PCRを行った。転移が起こればTol1因子が抜けるため、その分短くなったDNA断片が生じるはずである。5組のすべてについて、そのような断片が生じるという結果が得られた。産物の量は、自然で転移が起こる場合の100倍以上であり、転移頻度が高いことが推察された。以上のように、トランスポジションバーストを人為的に再現することができた。この結果の意義は、トランスポジションバーストの機構を解明するための簡便な実験系が準備できたことにある。
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