研究概要 |
本研究では、ヒト癌でみられるリピート不安定性の分子機序について、ミスマッチ修復(DNA mismatch repair,MMR)異常以外の機序、とくに2重鎖切断修復異常等の可能性を検討し、そのようなカテゴリーのリピート不安定性の存在の有無を明らかにし、ひいては、このようなリピート不安定性の発がんにおける意義を明らかにすることを目的とした。本年度は、マイクロサテライト不安定性(microsatellite instability,MSI)とMMR異常との正確な関係を明らかにする目的で、MSIが生じる生物学的条件についてさらなる検討をおこなった。MSIは一般に、MMR異常をもつ細胞でみとめられるとされるが、リピート上で滑りにより合成を誤るDNAポリメラーゼの性質から、マイクロサテライト配列変化が長短二方向性に生じるため、実際に変化が固定され、可視化するには、独立した且つ十分に長い複製の歴史を必要とする。このことを、MMR遺伝子に既知の欠損をもつヒト大腸癌細胞株HCT116を用いた人口組織において、少数の細胞塊をレーザーマイクロディセクションにより回収することで明かにした(Fujii K,Cancer Genet Cytogenet 2009)。現在、実際には潜在的に変化しにくいこのマイクロサテライトの性質を、2塩基繰り返しのものから1塩基繰り返しのマイクロサテライトにまで拡張して、検証をおこなっている。MMR異常以外の機序としては、DNAポリメラーゼの校正機能の異常を考慮し、現在、ヒト大腸がん症例パネルにおいて、POLD1遺伝子およびPOLE遺伝子の変異解析を行っている。
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