研究概要 |
平成20年度の研究はほぼ当初の計画通りに行われ, 森林限界上昇の過程と機構の解明に大きく前進した。主な成果は以下の4点にまとめられる。 (1) 富士山北斜面の森林限界域146haについて, 1975年と2002年撮影の空中写真を用いて最近27年間の植生の変化を解析し, 植生の後退・拡大の要因と速度を明らかにした。植生の後退は主に雪崩によって起こり, 拡大は一次遷移の進行によって恒常風の風下側(東)で速く進み, それらの結果として平均0.36〜0.46m/年の速度で森林限界の標高が上昇したことがわかった。この手法を使って富士山全体での森林限界上昇の過程と速度を明らかにすることが可能となった。 (2) 半島状植生内のカラマツとシラビソの樹齢とサイズについての空間分布, および積雪深・期間の調査により, 地形に対応した積雪のパターンが森林の遷移過程と植生の分布パターンの要因として重要であることが裏付けられた。 (3) 亜高山帯林の極相種であるシラビソ稚樹の雪崩による環境変化に対する生理的応答の調査から, 雪崩跡地で生き残ったシラビソ稚樹が光合成の強光阻害と乾燥ストレスにより, 成長が著しく妨げられることが示された。これにより森林限界での遷移の進行に与える雪崩の効果の重要なメカニズムの一つが明らかになった。 (4) 森林限界上昇の速度を制限する要因と考えられる, 窒素NあるいはリンPの欠乏について数種の樹木と土壌を調査し, 森林限界での植物の生育に対する栄養塩の制限としてはPよりNの方が重要であることが示唆された。
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