森林の空間構造と地上バイオマスの分布およびそれらの規定要因を明らかにするために、中川水系西沢集水域(440ha)において、1)41地点で直径5cm以上の毎木調査、土壌厚・斜面傾斜等の測定、2)集水域の一部(54ha)で直径50cm以上の全ての大径木の調査を行い、GISおよび統計解析を行った。西沢集水域は標高540-1290m、植生帯は上部暖温帯から冷温帯にまたがる。風化の進んだトーナル岩を母材とし、尾根周辺の緩傾斜部には火山灰性の土壌が残存する。1)70の出現種を対象にした主成分分析の結果、場所による植生の違いは、第一に標高、第二にラプラシアン(尾根-谷傾度上の位置)で特徴付けられた。標高の高い尾根部には発達したブナ林、谷部にはフサザクラ林が分布する。バイオマスの指標となる樹木の胸高断面積(BA)合計は、ラプラシアンが小さいほど(より尾根的)・傾斜が緩いほど・土が厚いほど大きく、この3変数でよく説明できた。尾根に近いほど傾斜が緩く土が厚い傾向にある。またトーナル風化土壌より火山灰性土壌でBA合計が高い。2)ロジスティック重回帰による出現確率モデルによると、大径木の潜在的な分布は尾根筋に沿った狭い範囲に限定されている。以上から、本集水域では活発な浸食作用が植生を規定し、一般的な傾向とは異なり、尾根に近いほど地表が安定して森林が発達していると言えた。
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