研究概要 |
魚類の飼育交配実験の結果から,魚類の左右性の遺伝はメンデル遺伝に近いが,左利きホモが存在しないと考えられる.遺伝的不和合性により左利きホモを阻止する遺伝子として,配偶子に左利き遺伝子と不和合性遺伝子が入っていたら左利き遺伝子をもつ配偶子と結びつかないようにするとしたモデル,不和合性遺伝子が卵子に入っている場合のみ影響するとしたモデル,母親が左利きのときに不和合性遺伝子が働くとするモデルなど様々なモデルを考え,不和合性が進化的に有利となって広がるかどうかを計算機シミュレーションにより調べた.多くのモデルでパラメータにより不和合性が有利となり不和合性が広がるが,不和合性が全体を占めて固定することはなかった.特に1捕食者-1餌系で卵子内の不和合性遺伝子が左利きホモを阻止するというモデルで,パラメータにより最終的な不和合性の割合が8割以上と大きくなった.捕食者,餌それぞれの左利き個体の割合は,捕食者が自分と利きが異なる餌を捕食するという交差捕食により振動するが,不和合性遺伝子の割り合いが増えると振動が収まって左利きの割合が0.5となり,不和合性遺伝子はそれ以上増加しなくなる.左右性の割合が振動しているときには頻度依存選択によりそれぞれの利きの有利不利が交替するが,不和合性により左利き個体の2世代以降の右利き個体の割合が増えるため,不和合性が有利となると考えられる.また,捕食率の関数形を変えたモデルにより,不和合性遺伝子の割合が増えても左右性の比率の振動が続き,不和合性が固定して左利きホモが消失することが可能であることを示した.左右性の振動による左利きホモの消失は,個体群のダイナミクスによって遺伝システムが適応的に変化するという興味深い現象の存在を示したことになる.また,カワリヌマエビでの飼育交配実験により,甲殻類での左右性の遺伝様式が魚類とは異なっていることが示された.
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