2007年8月の淡青丸航海(KT-07-19)と2007年12月〜2008年1月の白鳳丸航海でインド洋(北緯8度〜南緯10度)及び、黒潮流域で採集された3種の外洋棲ウミアメンボ類を対象にした、船内実験室での温度麻痺実験や2007年度春と秋に行われた陸水産ウミアメンボ=シマアメンボ(Metrocoris histrio)の同様の実験、さらに2006年度に行われた3航海(淡青丸航海、白鳳丸航海、みらい航海)で得られた、秋の黒潮域、西部太平洋域(北緯0-17度)産の外洋棲ウミアメンボ類の同様の実験を行った。 概ね高緯度海域に生息する外洋棲ウミアメンボ類ほど高温耐性が高く、赤道付近の熱帯域にあっても、海流などの海洋動態がダイナミックで、環境海水温の変動がはげしいと考えられる海域に生息する個体群ほど温度変化に耐えられることわかった。外洋棲ウミアメンボ3種間で比較すると、北緯12〜17度で生息していた個体では、ツヤウミアメンボ(ツヤ)、センタウミアメンボ(センタ)、コガタウミアメンボ(コガタ)の順に小型種になるほど高温麻痺温度が高かった。また、北緯6度、東経130度の西太平洋熱帯海域でも、中型のセンタが大型のツヤより高い麻痺温度を示した。これらのことは、小型になるほど、生息域を高緯度地域にまで伸ばしていることと関係するかもしれない。 黒潮域では9月末の鹿児島沖で採取された外洋棲ウミアメンボ類は35〜40℃までほとんどが耐え高温に対する耐性が高かったが、2007年8月高知沖で採取された個体は平均約33℃で麻痺した。このように秋や春など気温の日内変動が生じる季節には温度変化への耐性が強くなる可能性が示された。また、温度の日内変動や季節変動の激しい陸水に棲むシマアメンボは海水産ウミアメンボ類より高い高温麻痺温度を示し、温度変化への高い耐性を持つと考えられた。 進化の途上で外洋に適応したウミアメンボ類と一旦海面に進出したあと再び淡水に戻ったシマアメンボの温度変化への耐性機能は、それぞれの生息する環境温の変化の有り様を大きく反映していることが明らかとなった。
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