研究概要 |
人間活動が生態系に与える影響を評価するためには,影響を及ぼす環境要因だけでなく,その要因が作用する空間スケールを明らかにする必要がある.本研究ではため池において,水生植物の多様性と関連のある環境特性(ため池の物理構造,周囲の土地利用)とその空間スケールを調べた.水生植物の多様性の指標には生活形(沈水,浮葉,抽水)に注目し,各池の抽水,浮葉植物の出現種数,および沈水植物の有無を用いた.また同様に,ため池の水質と関連する環境特性と空間スケールも調べた.空間スケールはため池の周囲5-5000mに注目した.その結果,沈水植物の有無は,ため池から75mまでの土地利用で説明されたが,浮葉植物の出現種数は500m,抽水植物の出現種数は2500mと水への依存度の低い生活形ほど空間スケールは大きかった.一方,水質は沈水植物と浮葉植物の中間の空間スケール(100-250m)の土地利用で説明された.概ね,市街地面積率の増加に伴い,水生植物の種多様度は減少した.また,周囲の淡水域面積率は正の影響を与えていた.水深が深くなると,水生植物の出現種数は減少した.ため池面積は調査した池うちの中間のサイズ(0.5ha)で,出現種数は最大値を示し,以降わずかに減少した.以上より,池の生物多様性の保全に関係する空間スケールが特定され,市街化,池周辺の淡水域面積の減少,改修工事などによる池の深水化や大型化はため池の水生植物の多様性に対する負の要因となることが明らかになった.
|