研究概要 |
植物の根は根冠コルメラ細胞で重力刺激を感受し,そのシグナルを伸長領域に伝達することにより重力屈性を発現し,環境に適応している.本研究では,根の重力応答機構の中で研究が進展していない根冠コルメラ細胞分化,沈降性アミロプラストの分化誘導,ならびに根の重力感受機構を明らかにすることを目的としている.そのために,光屈性が重力屈性に干渉することを利用した実験系を利用して,シロイヌナズナのEMSで突然変異を誘発した10万個体のM_2を選抜した結果,44系統の根の重力屈性異常突然変異体を単離し,現在,これらの遺伝的解析を行なっている.第5染色体に突然変異遺伝子が座上していた25-66系統は,pgm-1(phosphoglucomutase-1)突然変異体との相補性検定の結果から,PGM遺伝子に突然変異が生じていることが示唆された.PGMタンパク質はデンプン生合成を担っており,PGM遺伝子の機能が完全に欠損したpgm-1突然変異体の根では重力感受性が低下する.このことから,植物の根はデンプンを含むアミロプラストが沈降することにより,重力を感受していると考えられている(デンプン平衡石説).25-66系統では、デンプン粒の染色が認められることから,本系統のFGM活性は完全には消失せず,低下にとどまり,重力屈性の発現に必要なデンプン量の閾値よりも少ないデンプンが合成されていると予想される.従来,pgm突然変異体はデンプン量を指標に単離されてきた.重力屈性と光屈性の干渉作用を利用した実験系により,暗所では野生型との間で根の伸長方向に有意差が認められないpgm突然変異体のアリルを単離できた.したがって,本実験系により,根の重力応答性を完全に欠損しない新規の突然変異体の単離が可能であると期待される.
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