研究概要 |
植物のチオレドキシン(Trx)は、外から還元力(つまり電子)を受け取り、自身のジスルフィド結合を用いて、標的タンパク質を還元し、標的タンパク質の酵素活性を調節している。つまり、Trxが細胞内で機能するためには、還元力(電子)が必須である。植物の葉緑体では、光合成反応で還元力をつくりだし、葉緑体ストロマ側にNADPHなどの形で還元力を蓄積している。ストロマ側に蓄積した還元力の一部は、葉緑体ストロマに局在するTrxに受け渡され、Trxが機能する。このように、光合成が行われるような条件下のストロマにはTrxが機能するのに必要な還元力が十分に存在している。これに対して、チラコイド膜を隔てたチラコイド内腔では還元力の蓄積は知られておらず、そこには、酸化還元による調節機構が存在するか否かすら、明らかになっていない。 近年、チラコイド内腔のような還元力の蓄積のないコンパートメントでもチオレドキシン(Trx)様タンパク質が存在し機能していることが明らかになってきた(J. Biol. Chem. 281, 35039-35047 (2006))。この内腔のTrx様タンパク質が機能するためには、還元力の供給が必須であるが、私はこれまでにその供給源の候補は葉緑体ストロマにあるTrxであることを明らかにしてきた。その還元力供給過程に関連すると考えられるシステムを明らかにするため、今年度はこれに関連することが予想されるタンパク質の抗体作成、in vitroアッセイ系の構築を目指して実験を行ってきた。その結果、いくつかのタンパク質については抗体作成を終了し、in vitroでの還元力伝達アッセイを行うことを可能になってきた。
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