研究課題
軟骨魚類(サメ・エイ・ギンザメ)は体内に尿素をため込むことで、体内の浸透圧を海水と同じレベルに保つ。その結果、海という高浸透圧環境でも脱水から免れ適応できる。この尿素による体液調節のしくみを明らかにするため、尿素調節にもっとも重要な腎臓に注目し、1)尿素代謝に関る膜輸送体の同定、2)環境浸透圧の変化に伴う膜輸送体分子の動態、という二つの研究を進めた。膜輸送体の同定は、全頭類のゾウギンザメを用いて進めた。ゾウギンザメは軟骨魚類で唯一ゲノムプロジェクトが進められており、しかも世界中で我々が唯一生理学的な研究を進められる、きわめて有用な軟骨魚だからである。これまでに3種類の尿素輸送体をクローニングすることに成功し、3種類全てが腎臓で発現していることを見出した。ひとつの動物種から3種類の尿素輸送体が得られたのは今回が初めてであり、軟骨魚類の尿素輸送体だけでなく、哺乳類を含めた脊椎動物の尿素代謝研究にとって大きな成果である。我々はこれまでにドチザメの腎臓において、尿細管の最終分節である集合細管にのみ尿素輸送体(UT-α)が発現し、この部位が尿素再吸収の場であることを示してきた。本研究では、体内の尿素濃度が変化した時にUT-αがどのような動態を示すのかを調べ、尿素再吸収機構の解明を進めようと考えた。その結果、通常の海水ではUT-αがドチザメの腎集合細管の頂端膜に局在するのに対し、30%海水では頂端膜から殆ど消失し、逆に130%海水群では局在量が若干増加した。血漿中の尿素濃度とUT-αの量の間には強い正の相関が見られ、頂端膜に存在するUT-αの量が尿素再吸収量、すなわち血漿中の尿素濃度を規定していることが示唆された。ゾウギンザメで発見したUT-βとUT-γを今後ドチザメでも解析することで、尿素再吸収機構の全貌解明が進むと期待している。
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