下垂体より分泌される生殖腺刺激ホルモン(GTH)は、顎を持つ脊椎動物では、生殖腺の発達や配偶子の形成・成熟、繁殖行動に中枢的な役割を担っている。一方、最も原始的な脊椎動物とされる無顎類・メクラ(ヌタ)ウナギ類の生殖内分泌系や繁殖行動、胚発生に関する知見は極めて乏しい。本研究では、新潟県産のクロヌタウナギの下垂体から単離したGTH遺伝子をもとに組換えホルモンを構築し、これをヌタウナギ類における生殖内分泌機構の理解や人為催熟技術へと応用することを目的とし、以下の研究を進めた。 単離したクロヌタウナギのGTH遺伝子の構造をもとに、ホルモンを発現するベクターを構築した。この発現ベクターを酵母細胞に導入し、形質転換体を作出し、酵母培養液中に組換えタンパクを発現させた。GTHに特異的な抗血清ならびにWesternblot法により発現クローンをスクリーニングした結果、複数のクローンが分子量約40KDaのGTHを産生することが確認された。 構築した組換えホルモンの生理活性を知る前段階として、成熟したクロヌタウナギの下垂体を採取し、その抽出物をゲル濾過カラムならびにHPLCに供し、天然型GTHを単離した。次に、生物検定に用いる個体の成熟度や生殖腺機能を考慮するため、様々な成熟段階を示す個体の血中性ステロイドホルモン量を、時間分解蛍光免疫測定法により測定した。その結果、生殖腺の成熟に伴い、エストラジオール17β(E2)ならびにテストステロン(T)が上昇することが明らかとなった。 成熟した個体の精巣と天然型GTHを培養し、培養液中へのE2とTの放出量を測定したところ、天然型GTHの濃度に依存してE2ならびにTの分泌が促進された。次年度において、組換えGTHを大量に精製し、その生化学的特性を明らかにするとともに、天然型GTHが有する性ステロイド放出活性と比較しながら、組換えGTHの生物活性の有用性が見出せれば、ヌタウナギ類における生殖内分泌機構の理解や人為催熟技術への応用が可能であると考えられる。
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