下垂体より分泌される生殖腺刺激ホルモン(GTH)は、2種類のタンパク鎖(α鎖とβ鎖)からなる2量体糖タンパク質ホルモンである。最も原始的な脊椎動物とされる無顎類・メクラ(ヌタ)ウナギ類の下垂体にもGTH分子が存在することが示唆されているが、この動物の生殖内分泌機構や胚発生に関する知見は未だに乏しい。本研究では、新潟県産のクロヌタウナギの下垂体から単離したGTH分子を基盤に組換え型GTHを構築し、それをヌタウナギ類における生殖内分泌機構の理解や人為催熟技術へ繋げることを目的としている。 平成20年度までに、酵母細胞を宿主として構築されたヌタウナギの組換え型タンパクが、下垂体に局在する天然型GTHと極めて類似した構造を示すことが生化学的に示されている。今年度の研究では、精製した組換えタンパクを、クロヌタウナギの精巣を用いた器官培養系に供し、培養液中への性ステロイド[エストラジオール17β(E2)およびテストステロン(T)]の放出量を指標に、組換えタンパクの生理機能を調べた。その結果、高濃度(10μg/ml)の組換えGTH処理によりE2とTの分泌量は、それぞれ約1.6倍に増加し、作出した組換えタンパクがGTH様の作用を持つことが示された。また、精製した組換えGTHを抗原分子とし、これをウサギに免疫し、血中GTHを測定するための特異的抗血清を作出した。現在、血中ホルモン量を測定するためのアッセイ系の確立を進めており、近い将来、ヌタウナギ類ではじめて血中GTHの分泌プロファイルに関する知見が得られると確信している。また、本研究で得られた生理活性を持つ組換え型GTHは、今後、この動物における人為催熟技術の確立を進めるうえで、極めて重要なKey Moleculeとなることが大いに期待される。
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