アメリカザリガニは強烈な尾部への接触刺激に対し、巨大ニューロンLGを介した逃避行動を示すが、繰り返し刺激を与えると、馴化を起こしてLGは発火しなくなる。ザリガニはまた縄張り社会性を持ち、二匹のザリガニが出会うと、互いに接近し、ハサミを持ち上げ闘争を開始する。数回のファイトの後、凡そ30分以内に優位個体、劣位個体という社会的地位が成立し、優位個体が劣位個体に接近すると、劣位個体は戦うことなく、その場から後退するようになる。優劣という社会的地位成立により、優劣それぞれのアメリカザリガニの逃避行動馴化の成立過程は遅くなることを前年度明らかにした。そこで本年度はどのような神経修飾物質が優劣個体の馴化抑制に関与しているのか、生体アミンのセロトニン・オクトパミンをその候補に解析した。 (1) 行動実験より、セロトニンの生体内投与により、ザリガニに優位個体が示すような姿勢変化が生じること、またオクトパミン投与により、劣位個体様の姿勢変化が生じることを確認した。 (2) 生理実験より、セロトニン灌流下、オクトパミン灌流下で共に、ザリガニのLG馴化の成立過程は優位・劣位個体同様遅くなることが明らかになった。 (3) 二次メッセンジャー系の酵素活性化を阻害する薬剤の灌流実験より、セロトニンの効果はcAMPを介したカスケードが、一方オクトパミンの効果はIP3を介したカスケードが活性化されることで引き起こされることが明らかになった。
|