研究概要 |
ある動物の同一網膜上に,異なるスペクトル帯域に対して最大感度を示す視細胞を持つ場合,これらの視細胞は色弁別に利用されていると考えられてきた。多くの昆虫では複眼内に複数のスペクトル応答を持つ視細胞が存在することが知られており,これら中の多くの種で複数のスペクトル応答を示す視細胞によって色弁別を行うことが行動学的実験によって明らかにされている。我々は,ゲンジボタルにも紫外部(380nm)と緑色部(570nm)を網膜電位図法を用いて電気生理学的に明らかにした。夜行性の本種がなぜ異なるスペクトル極大に反応する別々の視細胞をもつ必要があるのだろうか。夜間の色弁別に用いられるのだろうか。行動学的解析から,ゲンジボタルは390nm付近の光照射で行動を停止し570nm付近の光照射で光源から逃避することを明らかにし,「特定スペクトル光による直接行動制御」と呼ぶべき色弁別能とは異なる現象が存在することを発見した。本年,ゲンジボタルの複眼には紫外部と緑色部に応答する視細胞からの細胞内記録に成功した。一方,電極の保持が悪く通常の微小管による細胞内染色法の時間短縮をするべく工夫を続けている。同時に,遺伝的手法による細胞染色を進め,終末部位の局在を明らかにしつつある。これらの事実は,これまでに知られていない情報処理系がゲンジボタルに存在することを示唆しており,複数のスペクトル情報が色を弁別する以外の情報としての波長の違いによる属性を持つ可能性がある。
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