【目的と概況】本課題の目的は、夜行性昆虫がどのような神経機能により周囲の空間構造を知り、いかに適切な場所へ自身をナビゲートするのかという神経科学上の問題について、コオロギの小スケール空間行動をモデルとして解明することにある。研究の立上げに当たる本年度は、まず行動実験システムを開発、確立し、次にこれを用いて昆虫の空間認知能における既知の行動学的知見を再検証することを主な目標とした。しかし代表者が平成19年10月に現所属へ異動したため、研究環境が大きく変化し、得られた成果は後述のように実験系の開発に限られた。平成20年度からは新たな研究協力者として修士大学院生1名と学部学生1名が得られ、かつ研究環境も整備されつつあるので、遅れを取り戻せるものと考えている。 【行動実験システムの開発状況】人工的閉鎖空間における非拘束動物の行動を自動計測するシステムの開発に着手した。まず各種条件を満たすXYレールガイドとサーボモータ2セットを準備し、機械駆動系を作製した。レールガイドのステージにはCCDカメラを搭載し画像センサに接続した。1台のCCDカメラはアリーナ中における動物の現在位置座標を取得し、もう1台のCCDカメラは動物の体軸方向、アンテナ水平位置等を記録するが、現在は位置検出用のカメラ1台のみで運転中である。本システムでは、動物の現在位置座標をプログラマブルコントローラ(PLC)へ送り、常に画像上の定点に戻すような負帰還制御信号をサーボモータへ送る。この負帰還信号の積算が動物の行動軌跡を与える。これら一連の処理を実行するPLCプログラムは、その暫定版が既に完成した。現在、より洗練されたサーボ制御をするためのプログラム修正や、ニューロン活動と行動を同時記録するためのサブシステムの構築をおこなっている。
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