研究課題/領域番号 |
19570071
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
藤 義博 九州大学, 理学研究院, 名誉教授 (60037265)
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研究分担者 |
岡田 二郎 長崎大学, 環境科学部, 准教授 (10284481)
山脇 兆史 九州大学, 理学研究院, 助教 (80325498)
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キーワード | 昆虫 / 視覚 / 距離感受性 / 神経生理学 / 神経解剖学 / 複眼 / ハンミョウ / 捕獲行動 |
研究概要 |
ハンミョウ(甲虫)は地面を走り獲物を捕獲する。この昆虫が餌となる虫等が捕獲可能な距離にあることを識別する仕組みを調べた。ビデオ解析、複眼の組織観察により以下のような結論を得た。 1)昆虫は眼間距離が短いため、両眼視により距離識別は困難とされている。ハンミョウにおいても、眼間距離、個眼の分解能を測定した結果、両眼視による距離測定の可能性は排除された。 2)昆虫が運動視差で距離を測る例が多数報告されている。ハンミョウは短い距離を走っては、静止することを繰り返す。走行開始時に、運動視差のため頭部を振る行動は観察されなかった。従って、運動視差の可能性も排除された。 3)ハンミョウは体長2cm程度であるが、静止姿勢ではその頭部は1cmの高さにある。地表1cmの高さにセットされた複眼で周囲を視ていることになる。頭部を上下に傾けると、微小カメラである複眼視野や視線の方向は変化する。しかし、ハンミョウの頭部と前胸部の間接は厚いクチクラで接し、可動性が乏しい。従って、静止姿勢では頭部、換言すると、複眼の高さと向きは常に一定であった。対象物が捕獲行動を引き起こす臨界距離にある場合、その対象物の接地点を臨む角度を臨界俯角とする。ハンミョウは臨界距離より遠い対象物に対しては追跡することはなかった。対象物の下縁を臨む俯角が臨界俯角より小さい場合、ハンミョウにとっては“追跡するには遠すぎる"というメッセージになると考えられた。複眼は固定カメラのように傾きが少ないため、その視軸が臨界俯角より下方にある個眼が刺激されれば、“捕獲可能な距離"というメッセージとなる。この仮説は、複眼を部分的に覆うことで確かめられた。さらに、垂直面で複眼の個眼間角を計測した結果、水平面から下方を臨む領域で解像度が高いことが明らかになった。この組織学的観察は、ハンミョウが対象物を臨む俯角で遠近の識別をする可能性を支持するものであった。
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