世界自然遺産として登録された知床半島の周辺海域は、その生態系の保全と持続的漁業の共存に向けての海域管理計画の策定を国際社会からもとめられている。本研究はそのための基礎資料として、また今後のモニタリングのためにも重要性の高い、知床半島周辺海域の魚類相の現状を明らかにすること目的として行われている。本年度は特に半島全域の浅海域に生息する魚類の種多様性を明らかにするために、春期(5-6月)と夏期(8月)にそれぞれ約10日間の現地調査を実施し、半島域の延べ21カ所で魚類のサンプル採集を行った。その結果、知床半島周辺の水深約10m以浅の浅海域で、8目25科89種の魚類の生息を確認した。それらのうちイワゲンゲ属のHadropareia semisquamata、ヒゲキタノトサカおよびニセタウエガジは日本での生息が標本に基づき初めて確認された。また、それぞれクロカジカ属、コオリカジカ属、ゴマギンポ属およびイワゲンゲ属に含まれる4種は、いずれも類似する既知種とは明らかに異なり、未記載種である可能性がきわめて高く、引き続き精査中である。今回明らかになった知床半島周辺海域の魚類相の分類群組成は、カジカ科が19種(全体の21%)、タウエガジ科が18種(20%)を占め、知床半島浅海域では典型的な寒冷性魚類といえるこの2科が極めて高い種多様性を示すことが明らかになった。その他にトクビレ科が7種(8%)、カレイ科が5種(6%)、メバル科、ニシキギンポ科およびクサウオ科がそれぞれ4種(4%)確認された。また、種レベルでは、ハコダテギンポ、ギスカジカおよびスジアイナメが優占的であることが明らかになった。今回の調査で確認された魚類のうち暖海性と見なせる魚種はヨウジウオ、メナダ、バケヌメリおよびマフグの4種のみであった。
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