チンパンジー(Pan troglodytes)、ニホンザル(Macaca fuscata)、オランウータン(Pongo aberii)、そしてゴリラ(Gorilla gorilla)の足骨格の可動域をCTにより非破壊的に観察し、それぞれの結果を比較検討した。後肢は、脛骨長軸と足底面が垂直な状態(Standard position)およびその位置から足を可能な限り回外させた状態(Supinated position)の2通りの条件で足根関節部位のCT画像撮影をおこなった。また、各趾を伸展させた状態(Extended position)と屈曲させた状態(Flexional position)でも撮影をおこなった。得られた断層画像データを三次元立体構築して、足根関節と趾、特に第一趾の可動状況を観察した。全ての霊長類において、距踵中心関節において距骨頭の舟状骨関節面を中心足根骨が下降しながら大きく回転し、さらに踵骨はわずかに回外し、同時に踵第四関節において第四足根骨が踵骨の立方骨関節面を大きく内腹側方向にスライドしていた。その結果として足の内側縁がほとんど垂直に挙上し足底が完全に内側を向いていた。またこれら霊長類では、長い5本の趾による把握機構を顕著に発達させていた。第一趾の屈曲に伴う第一中足骨の内転が4種の霊長類全てに確認されたが、オランウータンでその可動域が最も大きく、次いでゴリラ、ニホンザル、チンパンジーの順であった。オランウータンはその大きな体型にも関わらず、熱帯雨林の樹上で主に生活することから、後肢の把握機構を顕著に発達させ、また体重を支えることの出来る太い木の枝を把握するために第一中足骨が第二中足骨に対して90度近く開くことができると考えられる。ゴリラやチンパンジーでは第一中足骨は足の背腹平面で内転しており、上下斜め方向に可動面を持つ他の2種の可動様式とは異なっていた。ゴリラやチン。パンジーは半地上性を示しており、この中足骨の可動様式の特徴は地上への行動圏の拡大に伴う霊長類進化の過程における共通する形態適応の一つであると推測される。
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