研究概要 |
1.湖沼深底部の貧毛類群集の構成を種レベルで把握するために,平成21年度に,関東地方の湖沼(富士五湖,日光菅沼,赤城大沼)で採集調査を行なった.富士五湖を構成する5湖沼はいずれも深底部で貧毛類が優占したが,その組成はTubifex tubifexが優占する場合とそうでない場合とにはっきりと分かれた.深さの違いによる温度環境の違いと栄養段階の違いが貧毛類の構成を決める要因になっていることが推測された. 2.田沢湖で新種記載され,タイプ産地の深底部ですでに絶滅したことがわかっている貧毛類の一種,Tubifex(Peloscolex)nomuraiの実体を明らかにするために,田沢湖周辺をはじめとする北東北の湧水域で追加の調査を行ったところ,T.(P.)nomuraiの近縁種と考えられるEmbolocephalus nikolskyiとE.yamaguchiiの2種の分布境界が田沢湖付近にあることがわかった.T.(P.)nomuraiは,このいずれかかである可能性が指摘される. 3.小川原湖からミズミミズ科の一種(Nais kisui)を新種記載した.ミズミミズ科の新種が日本から報告されるのは半世紀ぶりとなる. 4.これまでの調査結果に基づいて,田沢湖,沼沢湖,猪苗代湖,伊豆沼,手賀沼・印旛沼などの深底部に出現する貧毛類群集の種組成の特徴を5編の論文にまとめ,湖底の群集の由来や成立背景について議論した.
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