研究概要 |
本研究の目的は,地質学資料,植生史資料,現生植生地理学資料の総合化により,第四紀の日本列島の環境変遷史に植生とフロラの地域分化プロセスを位置づけ,東アジア植物区系の生物多様性形成過程を明らかにすることである。そのため,東アジアでもっとも地質層序や地形発達史が詳細に明らかになっており,保存状態のよい大型植物化石が多産する新潟県中部の魚沼層群,岐阜県南部の東海層群,滋賀県南部の古琵琶湖層群,和歌山県北部の菖蒲谷層,宮崎県南部の更新統堆積物などの鮮新世から更新世にかけての地層を調査するとともに,大型植物化石を採取し分析することで,中部日本を中心とした日本海側と太平洋側,東北日本と西南日本の植生とフロラの地理的分化のプロセスを検討した。その結果,新潟県の魚沼層群と近畿地方中部の鮮新、更新統では鮮新世後期から前期更新世の化石フロラの組成は異なり,コウヨウザンなどは近畿地方だけから産出し,メタセコイアなどの消滅層準は近畿地方のほうが遅い傾向が見られた。一方,魚沼層群ではブナが多産する傾向が見られた。現在のようなフロラや植生の背腹性が前期更新世後半の約120万年前から顕著になり始めたと考えられた。常緑広葉樹の化石は中部日本のどの地層でも非常に少なく,大阪層群では中期更新世の約40kaの地層でのみ比較的多かった。一方,宮崎県南部の中期更新世の地層では中期更新世のどの間氷期も常緑広葉樹に富むことが明らかになった。魚沼層群の前期更新世後半の植物群の消滅,出現過程の詳細な検討からは,約120万年前以降に草本植物の種多様性が増加することが明らかになった。
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