研究概要 |
ザトウムシ類の核型の地理的分化に関してこれまで未調査であった和歌山県および香川県の各地でザトウムシ各種の染色体数の調査をおこないそれぞれ次のような結果を得た: 和歌山県:(1)アカサビザトウムシ:5集団で調査し,和泉葛城山と生石高原の2カ所が2n=16,それ以外(護摩壇山,護摩壇森林公園,狼乢山)が2n=14と,和歌山県内で本種の染色体数が地理的に分化していることを確認した。2n=16という染色体数は淡路島や六甲山地の集団と共通である。(2)ヒコナミザトウムシ:5集団で調査したが,染色体数は北から,和泉葛城山が2n=18,生石高原2n=18/19,護摩壇山2n=20/22,南部の熊野古道付近の狼乢山と百間渓谷2n-22と連続的に変異していた。(3)サトウナミザトウムシ:和泉葛城山では2n=16,和歌山県南部の2カ所では2n=18だった。 香川県:アカサビザトウムシについて小豆島の2集団と香川県本土側の3集団(日下峠,大窪寺,相栗峠)で染色体を調べ,小豆島と香川県東部の2集団(日下峠,大窪寺)は,淡路島や市川以東の兵庫県本土南部と同じ2n=16で,核型も類似しているのに対し,大窪寺から直線距離でわずか13km西方の高松市塩江町相栗峠の集団は旭川以西の岡山県の集団と同じ2n=12を示すことを確認した。両核型間の差は大きく,どのような染色体再配列でこれらの差異がもたらされているかは推測できなかった。また,小豆島と日下峠の集団は兵庫県本州側と淡路島の集団と同様に歩脚腿節基部に黒紋が確認できるが,これらの西方に位置する大窪寺,相栗峠,琴平山ではこれが消失していた。香川県本土でのこの移行は,日下峠と香川県大窪寺の2地点間で急激におきており,両地点間で歩脚腿節基部の斑紋が漸次移行する可能性が示唆された。
|