研究概要 |
生殖様式は生物の進化過程、種分化の機構に大きい影響をもたらしている。シダ植物では通常の有性生殖の他、無配生殖を行うと報告されている。シダ植物の「種」多様性を明らかにする上で無配生殖種(apo.)の種分化と多様性過程に関する研究は欠かすことができない。本研究では、不等減数分裂によって、低倍数化の過程がオシダ属に存在することを明らかにした上、無配生殖種(精子を作れる)が近縁の有性生殖種との交雑によって、遺伝的変異を取り込む多様性形成機構の仮説が立てられ、この多様性形成機構が実際に自然界で起こっていることを実証し、無配生殖種の多様化過程を検証することを目的とする。 今年度(平成19年度)は京都大学、国文科学博物館などの植物標本庫に所蔵されているターゲットのオシダ科オシダ属ベニシダ類植物標本(427点)の胞子数を計数した。そのうち,391点は無配生殖型、34点有性生殖型、2点不明で、無配生殖型が多数であることと、有性生殖型が日本の本州から九州まで分布していることが明らかになった。この結果の基に、フィールド調査を行い、胞子をつけている葉の標本、サンプルを採集した。胞子嚢あたりの胞子数を計数することによって生殖様式を推定し、有性生殖型と無配生殖型の混生している分布地3カ所(神奈川県,島根県,隠岐諸島)を確定した。入手したサンプルを用いて、細胞学的観察,酵素多型など予備的分析を行った。 平成20年度の研究においては、確定された生息地の生態環境の調査と集団構成の分析を行い、細胞学的観察,酵素多型分析の精度を高め、各生殖型の倍数性,遺伝子型を明らかにする。また、無配生殖3倍体にみられた多様性の形成機構に関する仮説の中の交雑過程を実証するため、胞子から配偶体の培養ならびに無配生殖型と有性生殖型の人工交雑実験を行う予定である。
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