研究概要 |
生殖様式は生物の進化過程,種分化の機構に大きい影響をもたらしている。シダ植物では通常の有性生殖の他,無配生殖を行うと報告されている。シダ植物の「種」多様性を明らかにする上で無配生殖種(apo.)の種分化と多様性過程に関する研究は欠かすことができない。本研究では,不等減数分裂によって,低倍数化の過程がオシダ属に存在することを明らかにした上,無配生殖種(精子を作れる)が近縁の有性生殖種との交雑によって,遺伝的変異を取り込む多様性形成機構の仮説が立てられ,この多様性形成機構が実際に自然界で起こっていることを実証し,無配生殖種の多様化過程を検証することを目的とする。 今年度(平成21年度)は,これまでにフィールド調査で入手したべニシダ類のハチジョウベニシダ(2x. sex.),ベニシダの三倍体無配生殖型,三倍体‘雑種',四倍体‘雑種'を温室に栽培して,胞子を得られた。前年度の予備的な研究により,確立したベニシダ類の胞子から配偶体の培養実験手法を用いて,胞子培養を行い,核DNA相対量の比較,プローイティアナライザー分析を行った。その結果:(1) ベニシダ類の‘雑種'(3x, 4x)の発芽率はc.20%あることがわかった;(2) 無配生殖型の前葉体に造卵器形成している(c.4%)ことが確認された;(3) 二倍体,四倍体‘雑種'(胞子イレギュラー)が不等分裂によって,同一個体に32s/s, 64s/s, 108s/sの胞子嚢を形成していることが観察された;(4) 四倍体‘雑種'の同一個体に形成された多型の胞子嚢からの胞子の培養を行い,得られた前葉体と胞子体がそれぞれ2x,4xの前葉体,2x,3x,4xの胞子体,4xの前葉体から4xの胞子体を形成していることが確認された。 本研究の結果によって:無配生殖型の前葉体に造卵器形成することから,無配生殖型は母親になれないとは言い切れない。母親としても交配の可能性があると考えられ,無配生殖型の集団内に遺伝的変異を取り込む機構の解明に重要な手掛かりになると考えられる。また,‘雑種'の同一個体の不等分裂によって,異なる倍数体を形成することがベニシダ類の多型形成に直接寄与していることが明らかになった。この結果,シダ植物の進化・種分化の解明に新たなカギになり,予想以上の成果を得られたと思われる。
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